認知症の高齢者の一人暮らしがもたらすリスクとはと

高齢者が認知症を患うと、日常生活において様々なリスクが増大します。
特に一人暮らしを続ける場合、そのリスクはさらに深刻になります。
ここでは、司法書士の視点から、認知症の高齢者が一人暮らしを続けることのリスクとその対策について解説します。

認知症対策は、認知機能が衰える前に行う必要があります。既に認知機能が低下している場合、一切の対策が取れない可能性もありますので、ご注意ください。

司法書士 山本

最近は特に認知症の相談が増えています。
認知症になった際の様々な問題点(リスク)をご紹介して、その対策をお話しします。

この記事を書いた人 
  • 資格
    司法書士・宅地建物取引士・家族信託専門士・簿記2級・FP
  • 経歴
    静岡県富士市出身。明治大学卒業。大学2年時より司法書士の勉強をはじめ、体育会弓道部の主将を務めながら勉強を積み重ね、平成23年司法書士試験に合格。平成24年富士市にて司法書士事務所を開業
  • 心情
    「法律を知らないで損をする人を少しでも減らしたい」を心情に、様々な法的相談や手続きを誠実・親切・丁寧な対応を心がけている。
司法書士
山本真吾
目次

認知症の高齢者の一人暮らしがもたらす主なリスク

高齢者の方の一人暮らしにおいて、予想されるリスクは様々なものがあります。
ここでは、静岡県富士市の司法書士である私が実際によく遭遇する問題点にフォーカスしてご紹介します。

資産凍結のリスク

認知症によって記憶力や判断力が低下すると、自分の財産管理が難しくなってきます。
自分で意思表示することができなくなるため、契約行為などができなくなる結果、資産が凍結されるリスクがあります。

認知症になると凍結されるもの
  • 預貯金
    →窓口などで出金や解約ができなくなり、口座から現金が出せなくなります。
  • 不動産の売却、賃貸
    →認知症になると契約することができなくなるので、売買や賃貸などができなくなり、不動産を有効活用することができなくなります。

相続手続きができないリスク

まず、認知症になると意思表示をすることが困難になるため、契約行為が一切できなくなります。

そして、相続手続きを行う際には、遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議書も契約の一つなので、相続人の中に認知症の方がいると遺産分割協議ができず、相続手続きが進まなくなるリスクがあります。

このような状況になってしまった場合、成年後見人を選任するか亡くなるまで待つか2択になります。
成年後見人制度は認知症の方の財産等の保護を優先する一方、一度成年後見制度がスタートすると亡くなるまで、やめることができないといったデメリットも存在します。

可能であれば、成年後見制度をつかわずに対応ができるよう対策を講じる必要があります。

契約上のリスク

高齢者の一人暮らしは、詐欺などの被害に遭う確率があがります。

「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について」(警視庁発表)によると、令和4年(2022年)の特殊詐欺の認知件数は17,570件となり、被害額は370.8億円となりました。
被害に遭われた方のうち、65歳以上の高齢者が被害にあった件数は15,114件でした。


一度被害に遭うと複数回対象とされることもあり、契約の取消し自体も難しくなります。

詐欺などの被害に遭う前に対策を講じる必要があります。

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司法書士が提案する認知症対策

認知症の高齢者の一人暮らしがもたらすリスクを回避するため、法的な対策を検討する必要があります。
そこで、ここでは司法書士がリスク回避するための法的対策をご提案します。

任意後見制度の活用

対応可能なリスク
  • 資産凍結のリスク
  • 相続手続きができないリスク

任意後見制度は、認知症が進行する前に自ら信頼できる人を後見人として選び、将来のサポートを依頼する制度です。
任意後見契約に基づき、後見人は認知症の進行に伴い、預貯金の管理や施設との入所契約、日常の法律行為の代行などご本人の代わりに行います。

これにより、生活の質を維持しながら安心して生活することができます。
任意後見人は、生活全般のサポートや財産管理、医療機関との連携など、多岐にわたる支援を提供します。

任意後見人は、認知症になった本人の代わりに預貯金の管理をすることが可能です。そのため、ご本人が認知症になっても資産が凍結されるおそれはなく、任意後見人が適切に管理してくれます。
また、任意後見人に相続手手続きに関する代理権を与えておけば、相続手続きも任意後見人が行うことができます。

ただし、任意後見人は本人が不要な物を購入したり、認知機能低下による商品の購入などは取り消すことができません。そのため、契約上のリスクを回避することはできません。

家族信託の活用

対応可能なリスク
  • 資産凍結のリスク
  • 相続手続きができないリスク

家族信託は、認知症の高齢者の財産を信頼できる家族に託す仕組みです。
これにより、認知症が進行しても、財産の管理や運用がスムーズに行えます。

また、家族信託は遺言のような効果もあり、家族信託が終了したときに希望の人に財産を承継させることができます。

家族信託を活用することで、認知症による財産管理の不安や相続問題を軽減することができます。

特定の財産を裁判所の関与なしに財産管理を任せることができます。
また、遺言の代用としても利用可能です。

家族信託は複雑なため、専門的な知識が必要となります。
家族信託は一部の資産のみ対象とすることができます。つまり、高齢者の全ての財産に対して認知症対策をすることはできません。

遺言書の作成

対応可能なリスク
  • 相続手続きができないリスク

認知症が進行する前に、遺言書を作成することも重要です。
これにより、自分の意思を明確にし、相続に関するトラブルを未然に防ぐことができます。

遺言書を作成しておけば、ご自分の財産のすべてを希望した人に承継させることが可能です。
また、家族信託とは異なり自身がもつすべての財産の承継先を決めることができるので、相続対策としては一番重要なものが遺言書となります。

まとめ

認知症の高齢者が一人暮らしを続けることは、多くのリスクを伴います。
しかし、司法書士のサポートや地域のサービスを利用することで、そのリスクを軽減することが可能です。
家族信託や任意後見制度を活用することで、財産管理や生活のサポートを確保し、安心して生活できる環境を整えることが求められます。
家族や周囲の人々も、認知症の高齢者を支えるために積極的に関与し、安心して生活できる環境を整えることが大切です。

認知症対策は、認知機能が衰える前に行う必要があります。既に認知機能が低下している場合、一切の対策が取れない可能性もありますので、ご注意ください。

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